皆さんの働く企業では、産業医を契約していますか?法律では、50名を超える事業場では、選任が必要とされています。この『事業場』という言葉がミソで、1ロケーションという意味です。例えば、東京の本社300名、大阪支店70名、福岡支店30名、という会社では産業医契約は、本社と大阪の2か所で必要となります。最近は、これに関しては、人事部門の方の知識も確実になってきたようですが、今でも『全体の従業員数で決めるんでしょ?』とおっしゃる方にも、ごくたまに遭遇しますので、要注意。
さて、産業医とは、企業にとってどんなドクターなのか・・?ちょっと人事の人の声を聞いてみましょうよ。
『契約してから一度も顔見たことないよ。』
『近所の開業医に形ばかりのお礼を払ってます。』
『健康診断で使うクリニックの先生だけど、実際は忙しくて・・・。』
『顧問料ばっかり高くて、実際何する先生なの?』
『メンタル不調者のことで相談したら、専門じゃないって断わられた。』
などなど・・・。あまり評判良くないみたいですね(..-_-..)
さて、ここでおさらい。産業医の仕事とは?
産業医の仕事は大きくわけて、下記の3つです。
1.有害物質の管理や工場・事務所内の環境測定と改善を行う
「作業環境管理」
2.作業姿勢や作業時間の管理、有害物質への曝露の測定や、
身を守るための保護具についての管理を行う「作業管理」
3.健康診断や休職・復職時の診断、健康教育や疾病予防などの
「健康管理」
これを「産業保健の3管理」と呼んでいます。製造業・建設業などの人事ご担当者にとっては1,2も重要事項ですがサービス・小売業などにとっては3が最も気になる項目ですね。法律を中心に産業医の仕事を見てみると、下記のようなものが挙げられます。
・月に一度の事業場巡回
・衛生委員会の構成メンバー(委員会への出席は、委員会の任意)
・健康診断の事後措置に関する業務 (所見に対するチェックなど)
・作業環境の維持管理に関する業務 (リスクの洗い出しと評価・対策など)
・過重労働者との面談
・休職・復職に関わる本人との面談
・休職・復職に関する労務部門への助言
・日常の健康相談
・安全衛生教育・健康教育の実施
・労基署への提出書類作成支援
・衛生委員会議事録への捺印
・50名以下の拠点における健康管理の基準づくり
・労働者の健康障害の原因の調査、および再発防止のための措置に関する業務
・労働者の健康を確保するため、必要があると認めるときは、企業に勧告をする
上記には、法律に『医師』と書いてあるだけで、必ずしも産業医でなくてもいい項目も含まれています。でも、会社で契約しているドクターに頼めるならその方が便利ですよね。
『えーー?こんなに仕事があるの?!』と驚いた方。そうなんですよ。これをしっかりやってくれれば、月額10万円以上支払っても安いもんです。産業医というのは、こう言ってはなんですが、いままで非常にステータスが低く、医者仲間でも、
『臨床できないから産業医なんかやってるんでしょ。』という風潮があったそうです。また、企業側でも、『最低料金払って、契約しておけばいいや。』ということで名義借りが横行。この両者の悪しき関係が幽霊産業医(名ばかり)を生んだのでしょうね。
しかし、ここ5,6年、過労死やうつ自殺などが労災認定が加速されると、企業側でも、普段の健康管理の重要性に気付き始めます。また、労働安全衛生法がどんどん厳しくなり、普段の従業員の健康管理をどうしていたか?が労災認定や、民事訴訟での争点になります。そこで産業医。ちゃんと働いてくれる産業医!
ここで、人事部門の方たちにも改めて認識して頂きたいのが、街の開業医と産業医は根本的に業務内容が違う、とう事実です。どちらも、態度が良くて、優しくて、優秀なドクターに越したことはありませんが、産業医は、企業側の人間でなくてはなりません。経営サイドと認識を合わせ、リスクマネジメントの見地に立って意見を述べられるドクターでなければ務まりません。休職・復職・退職に関わる診断でも、主治医はあくまでも、病人本人側に立って診断書を書きますが、産業医は、企業側に立って判断する人であったもらわねば困ります。これには、企業側も『従業員の心身の健康管理は、福利厚生ではなくリスクマネジメントである』という認識を強く持たねばなりません。それで初めて、産業医との良好な関係が築けるというものです。