過労自殺、うつ自殺、労災申請と民事訴訟

皆さん、ちょっと下記の新聞記事の抜粋を読んでみてください。この例は、精神疾患に至る前の体調不良が、業務上によるものかどうか、という話です。

(記事ここから)

「息子は過労死していたかもしれません」。
関東地方に住む50代の母親は、一人息子(28)の働き方を振り返った。

長男は高校卒業後、調理の専門学校で学んだ。その後、将来を考えて正社員になりたいと考え、新興のチェーン店のレストランに正社員で就職、毎日長時間働くも、楽しそうで、無理をしている感じはなかった。

昨年8月以降、労働時間が異常に長くなった。顔色も悪く、休日もほぼ1日寝て過ごすようになった。理由を聞くと、新規店の開店準備のリーダーを任されたという。体はやせて一回り小さくなり、残業は月150時間に上った。

両親が労災申請を支援する団体に相談したところ、そのまま働くのは危険、上司と話し合うか、労働基準監督署への申告、労組加入を勧められた。両親は長男と話し合い、仕事を辞める道を選んだ。

08年度のまとめでも、うつ病など精神疾患全体の労災認定は30代(74人)、20代(70人)、40代(69人)の順で、若年層が目立つ。特に20代は申請、認定とも前年度を上回った。過労死弁護団の川人博弁護士も「職場は経済危機・人員整理の情勢の下で、労働者に対するプレッシャーはますます強まっている」と労働環境の悪化に懸念を示す。こうした状況に対応するにはどうしたら良いのか。労災支援相談の担当者は「会社の心の相談は受けづらいと思うので、ウェブのストレスチェックなどを利用すると良い」とアドバイスする。

【7月6日10時53分配信 毎日新聞Webニュースより】
(記事ここまで)

さてみなさん、上記の記事からは、様々なことが読み取れます。

■ 親が相談するケースが増えている

これは労基署、および労災の相談を受ける団体などの統計で分かりますが、本人以外からの相談が増えているということです。特に若年層に限っては親の存在が大きい。これを『甘やかしている』『モンスター・ピアレントだ』と捉えると、とんでもないことに。確かに、10年前の感覚で言えば甘やかしすぎのモンスターでしょう。しかし、そんな事を言っていても、時代は変わったんです。以前なら『仕事がきついって息子が言ってます。』なんて言うのはとんでもなかった。いい大人になって、親に手を引かれて労基署に相談に行くヤツがあるか!その気持ち、私もわかります。(昭和のサラリーマンでしたから!)しかし、繰り返して言います。時代は変わったんです。これは、おおきな労務リスクですね。気を付けるに越したことはありません。

■ 相談相手(労基署およびそれに類する団体)は労働者の味方?

労災申請したい、という相談が増える中、認定の数も激増しています。これも企業のリスクですね。では、どんなケースが認定されるのか。これは一言で言ってしまえば『業務が原因でけが・病気・死亡した場合』に認定されます。従来からある、サービス業以外の労災(建設業や製造業などの現場がある仕事)は認定もしやすいですがこれがサービス業における心の病・・・だったりするともめるケースが多いです。しかし、統計上、認定数が増えているということはお国もかなり労働者寄りになってきている、と見たほうがいいでしょう。

■ 労災保険は1かゼロ

さて、事故と言ってても、企業の責任がある場合とない場合がある。しかし、いずれのケースでも、支給額に違いはありません。労災認定は、認められるか、認められないか、1か0なんです。労災と認められれば、企業の安全管理の度合いなどに関係なく支払われます。

■ 企業が1億円の支払い、などと新聞に書かれるのは?

企業の安全配慮があったかどうか、などは民事で争われるのです。これが1億円とか、そういう金額になる部分です。死亡であれば、遺族への慰謝料、死亡した方の逸失利益など。工事現場などの不慮の事故による障害で、たとえば下半身不随になった、となればこれも慰謝料+逸失利益を争うこととなります。

■ 心の病気の場合は・・?

これが心の病気だと、どうでしょう。まずは普通のけがなどとの共通点から。業務上起こったことだ、と認められれば労災保険の計算式によって支払われます。そして、民事においては、企業の安全配慮義務が問われますが、健康診断をきちんと受けさせていたこと、労働時間管理をしっかりやっていたこと、長時間残業時は医師の面談をうけさせていたこと、(少なくとも本人に医師面談の権利があることを知らせていたこと)などが証拠として提出されます。

では、違いは何か。
製造業や建設業における労災は『予期せぬ事故』というのがほとんどだと思いますが心の病は『予期できたのではないか。』という部分があるのではないでしょうか。裁判が長引き、お互いに主張を譲らないのはこのあたりではないか、と考えます。あんなに長く働かせたら死んでしまう!あんなにいじめたらうつ病になって自殺してしまう!もっと健康管理で、できることがあったはずだ!こんな風に周りが感じていながら、何もしなかった場合、明らかに企業の安全配慮義務違反となり、
労働安全衛生法、労働契約法上の違反(刑事)、そして損害賠償の訴訟(民事)のダブルパンチとなるのです。

■実際の調査では

労災認定でも、民事訴訟でも、とにかく労働時間を調べられます。その人が訴えてきた日の過去6ヶ月(場合によっては12か月)にわたって労働時間をしらべ、月○○時間を超える残業が○ヶ月あるか、のようにして業務上の体調不良か、死亡か、などを認定します。やはり長時間労働であれば、それだけ『業務上』と思われますね。もちろん労働時間のみが決め手となるわけではありません。その他、業務負荷、労働環境、人間関係、いろいろ調査するのですが、まず最初に調べられるのが労働時間。もちろん労働時間の管理を怠っていたり、サービス残業が発覚すれば、その時点で一発アウトになる可能性が高い。『業務上ではない』と企業が主張する根拠がないわけですから。

次は、定期健康診断について。きちんと受診させているのは当たり前として、その人に所見があれば、それを企業も現場も把握して適切な措置を取っていたか。これも法律に明記されている企業の義務です。そして、健康教育や相談窓口を設置していたかどうか。これは労働安全衛生法第69条に明記されている企業の義務ですから
この違反があると非常に不利です。

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